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当世食材事情

2009年7月23日 更新

ニラ<1>


記事関連の写真ニラはユリ科ユリ属の多年草で、ネギ・ニンニク・ラッキョウなどと同じ仲間です。原産地は東部アジアとされ、中国・朝鮮半島・日本・東南アジア・インド・西アジア・シベリアにかけて広く分布しています。一方、特有の臭気があるせいか、現在でも欧米ではあまり栽培されていません。

中国最古の詩集で五経のひとつでもある『詩経』に記載されているため、中国では有史以前から栽培していたと考えられています。また、明の時代の1578年に李時珍によって著された『本草綱目』には、ニラの薬用的効能や栽培に関する記述があり、古くから重要野菜として珍重されていたようです。

記事関連の写真日本にも野生のニラが見られますが、もともと自生していたものか、弥生時代あたりに伝来したニラが野生化したものかハッキリしていません。しかし、『古事記』に「加美良(かみら)」、『万葉集』に「久久美良(くくみら)」などの表記で登場しており、日本でも古くから重要な野菜でした。一説によると、この「みら」が院政時代に訛って「にら」になったといわれています。

記事関連の写真日本現存最古の漢和辞典『新撰字鏡』に「彌良(みら)」、深根輔仁(ふかねすけひと)撰の日本現存最古の本草書『本草和名』や源順(みなもとのしたごう)編の百科事典『和名類聚抄』に「古美良(こみら)」など、平安時代に編纂された書物にはニラを薬用として重宝している記述が散見され、9世紀ごろにはすでに栽培がはじまっていたと考えられています。また、平安時代の宮中の女房言葉(女官による隠語の一種)では、当時「き」と呼ばれていたネギの「ひともじ」に対して、ニラを「ふたもじ」と称し、粥に混ぜて薬用にしていたようです。

記事関連の写真江戸時代の宮崎安貞が著した『農業全書』には、ニラが人間の身体をあたためて滋養強壮に効くことから、「陽起草」の異名をとっていると記述しています。また、一度植えると放っておいても生育することから、「懶人草(らんじんそう)」の別称があることも書かれています。ちなみに「懶人」とは「怠惰な人」を意味し、怠け者でもつくれる野菜というわけです。これは、当時ニラが大量に用いる野菜ではなかったので、庭先や畑の縁の土留め用として手軽に栽培されていたことと、摘んでもすぐに芽が出て何度も収穫できたことに起因しています。


記事関連の写真ニラは「食べる薬」といわれているほど人体に有益な成分を多く含んでいます。ニラ特有のにおいのもとである香気成分アリシンは、ビタミンB1の吸収を高める効果があります。そのため、ビタミンB1を多く含んでいる豚肉・うなぎ・大豆・落花生・レバー・モツなどと調理すると薬効がより活かされます。また、豊富に含まれる栄養素ベータカロチンは、ニラ100グラムで成人男子の1日摂取量のほとんどをまかなえるほどです。さらに、カリウム・カルシウム・鉄などのミネラルや、ビタミンC・食物繊維なども多く、腹痛鎮静・風邪予防・疲労回復・精力増進などに奏功するほか、ニラに含まれるセレンは体内で活性酸素の発生を抑えるはたらきがあり、がんの予防にも効果があるとされています。

記事関連の写真漢方では、葉は韮白(きゅうはく)、種子は韮子(きゅうし)という生薬で用いられます。ニラは身体をあたためる陽性食品ですので、冷え性・不眠症・痔・神経痛・貧血などに効くとされています。そのほか、健胃・整腸・補腎・活血・生殖器回復作用など、ニラの薬効は枚挙にいとまがありません。



>> 伊澤宏樹 <<
1971年生まれ。青山学院大卒業。出版編集者。「堂々日本史」「その時歴史が動いた」「村上龍文学的エッセイ集」や百科事典などの担当を歴任。