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当世食材事情

2009年4月20日 更新

とうもろこし<2>

とうもろこしと野球 アメリカの象徴


記事関連の写真トウモロコシの年間世界生産量は約7億トンで、そのうち約5億トンが飼料・燃料、約2億トンが食用に使われています。最大の生産国はアメリカ合衆国で、その量約2.8億トン、これは全世界の収穫量の40%にあたります。次いで中国の約1.4億トン、EUの約4.6千万トン、ブラジルの約4.1千万トン、メキシコの約2.2千万トンで、これらの国だけで全世界の約4分の3を占めます。そのほか、おもな国では、アルゼンチン、インド、南アフリカ、カナダ、ウクライナなどで栽培されています。

記事関連の写真日本のトウモロコシ輸入量は、年間約1.6千万トンで、そのうちの約95%はアメリカ合衆国から仕入れています。これは世界総輸入量の約22%を占め、世界第1位です。また日本は、世界第6位のトウモロコシ消費国でもあり、全世界の約2.5%を使っています。用途としては、輸入量の約66%が飼料に使われ、約21%がコーンスターチ、約13%がコーンフレークや菓子に用いられます。

記事関連の写真日本では穀類としての生産量は3,000トン程度なので、自給率は0%ということになります。しかし日本では、スイートコーンを「直接食用とする未成熟なトウモロコシ」として野菜に分類しています。スイートコーンの国内生産量が約30万トンに対して、輸入量は約2,000トンで、スイートコーンに限っての自給率は約99%になります。

スイートコーンは、本来は晩夏から初秋にかけての野菜ですが、ハウス栽培の伸展によってほぼ周年出荷されています。出荷のピークは6〜9月で、栽培面積は北海道が最も多く、次いで千葉・茨城・群馬・長野とつづきます。


記事関連の写真食用のスイートコーンは、デンプン・糖質が高く、高カロリーです。また、たんぱく質や脂肪も豊富です。しかし、このたんぱく質にはナイアシンを体内合成する必須アミノ酸のトリプトファンがほとんど含まれていないため、トウモロコシを主食とする地域では「ペラグラ(ナイアシン欠乏症)」を発症するケースがみられます。トウモロコシばかりを偏食していると、日光を浴びやすい顔・手足の皮膚炎や、下痢などの胃腸障害を引き起こし、さらに悪化すると痴呆・うつなどの精神障害に発展します。けれどもナイアシンは、たらこ・かつお・レバーなどに多く含まれているため、これらの食材と一緒に食べれば、なんら発症の心配はありません。またペラグラ予防策として、メキシコの主食「トルティーヤ(トウモロコシパン)」の生地は、ナイアシンがアルカリ水溶液処理をすると吸収されやすくなるという性質を利用して、トウモロコシの粉に消石灰水や木灰を水に溶かした上澄みを加えてつくる工夫をしています。

記事関連の写真一方、胚芽の部分には、ビタミンB1・B2・Eが多く含まれています。とくにビタミンEは「若返りのビタミン」とも呼ばれ、動脈硬化・老化・不妊・貧血・脳軟化症などの予防に奏功します。さらに、スイートコーンには、セルロースをはじめ食物繊維が豊富に含まれていて、肥満・高脂血症の予防に役立ちます。


記事関連の写真起源とされている中南米では、現在でも摂取カロリーの多くをトウモロコシに頼っています。日本の「ごはん」にあたる主食トルティーヤ(トウモロコシパン)に、味つけした挽肉・魚・野菜などを巻き込んでチリソースをかけた「タコス」は、メキシコ料理には欠かせない国民食です。世界各国でもさまざまな料理に使われ、粉を水でこねて焼いたアメリカ合衆国の「コーンブレッド」や、粉を熱湯に混ぜて粥状に仕立てたイタリアの「ポレンタ」・ルーマニアの「ママリガ」・東部アフリカの「ウガリ」、蒸しパン状にした中国の「ウォートウ(窩頭)」など、枚挙にいとまがありません。

記事関連の写真料理以外にも、ポップコーン・コーンフレーク・コーンスープ・コーンミールなど食材としての用途は多岐にわたり、南米アンデス地方ではトウモロコシを発酵させてつくった「チチャ」という酒が愛飲されています。またトウモロコシを主原料とした蒸留酒「バーボン・ウイスキー」は、アメリカ合衆国ケンタッキー州を中心に生産されています。なお、「バーボン」という名前は、独立戦争の際にアメリカに味方してくれたフランスの「ブルボン朝」に由来しています。


記事関連の写真一面に広がるトウモロコシ畑はアメリカ合衆国の原風景で、畑に野球場をつくるケビン・コスナー主演の『フィールド・オブ・ドリームス』をはじめ、さまざまな映画・アニメ・文学作品に登場しています。たとえば、ドナルドダックのスクリーンデビュー作でもあるディズニー作品『かしこいメンドリ』では、トウモロコシの種まきから収穫までが中心となって話が展開しますし、日本の名作アニメ『あらいぐまラスカル』では、畑のトウモロコシを食い荒らしたラスカルを檻に閉じ込めるシーンが演出されています。また、宮崎駿作品『となりのトトロ』でも、入院しているお母さんが元気になるようにと、幼い次女メイが迷子になりながら病院までトウモロコシを届ける健気さが印象的に描かれています。

記事関連の写真そのほか短歌では、「しんとして 幅廣き街の 秋の夜の 玉蜀黍の 焼くるにほいよ」と詠んだ石川啄木の歌碑が、夏の風物詩「焼きトウモロコシ」で有名な札幌の大通公園に建立されています。しかし、この句を詠んだのは明治41(1908)年で、現在名物として屋台で売られているスイートコーンではなく、当時主流のフリントコーンだったといわれています。




>> 伊澤宏樹 <<
1971年生まれ。青山学院大卒業。出版編集者。「堂々日本史」「その時歴史が動いた」「村上龍文学的エッセイ集」や百科事典などの担当を歴任。