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農のある暮らし

2011年7月5日 更新

第1章 男の自立

漠然とした不安の中身


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冒頭で触れたとおり退職後に感じる「漠然とした不安」は漠然としたまま放置しないことです。

「漠然とした不安」には整理すると3つあると思います。

一つ目は経済的な不安

二つ目は日常生活での時間の使い方

三つ目は精神的な不安

厚生労働省や民間企業による各種調査結果によると、団塊世代は定年後も70%〜80%の人たちが働き続けることを希望しています。その大きな理由は経済的理由で年間所得、退職金、貯蓄額の低さによるよるものです。

「団塊格差」(文春新書)の著者、三浦 展氏が文芸春秋社と2006年に共同で行った「団塊世代2000人調査」結果を以下のとおり参考にしてみました。

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その著書によると年間所得は1000万円以上を高所得者層とすると全体の10%しかいません。一方年間所得300万円未満の低所得者層は20%を占めます。300万円以上1000万円未満の中所得者層は70%となっています。

退職金は2000万円以上が30%弱、500万円未満が55%弱でそのなかには35%が退職金ゼロという驚きの調査結果がでています。35%の退職金ゼロの人たちは倒産等で退職金が支給なされなかった人たちと自営業、農業、フリーランスのように退職金のない人たちが含まれます。

貯蓄については500万年未満が40%、2000万円以上が20%となっています。

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細かく言えば年間所得、退職金、貯蓄額に親の遺産相続額を加味しつつ、一方では負債項目として住宅ローン残高を考慮したほうが良いと思います。

こうしてみると団塊世代の中でかなりシビアな経済格差が存在することがわかります。

経済格差が生じる主な要因はかなりな程度学歴にあると思われます。団塊世代の大学進学率は20%強、高卒が45%、中卒が30%という割合ですが、ほぼ学歴と経済的格差には相関関係が認められます。

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このように団塊世代をひとくくりにできない経済格差が厳然としてあるなかで、定年後も働き続けたいという事情はよくわかります。

ただ酷なようですが、60歳をすぎてなおそれなりの所得が得られるような働き場所があるかどうかは別問題です。

私は2004年、60歳定年制の退職5年前に早期退職をしました。

今でもよく覚えていますが、3月末に早期退職することを家族に告げたのがその年の正月3日のことです。息子と娘はすでに社会人になっていて親としての責任は一応果たしたという気持ちと家のローンも完済していて心理的にも経済的にも身軽だったことが早期退職を決断した背景にありました。同時に家族には経済的な不安を抱かせないように、退職後以降の生涯資金繰り表を作り、説得しました。

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退職金、預貯金、失業保険と年金がこれからの生活を支える資金源となるわけですが、各項目総て事前に調べ、年度・月別の収入項目に転記し、同時に月々の生活費は総務省が統計をとっている平均家計支出を参考に、我が家の実情に合わせ修正して支出項目に記入しました。

自分がいつまで生きていられるのかは神のみぞ知るところなので、とりあえず欲張って85歳までの生涯資金繰り表を作りました。その結果なんとか資金は枯渇しないという計算になりました。あくまで計算上ではありますが。

私の早期退職話に対する家族の反応はまちまちでした。長男は一瞬驚いた様子でしたが、生涯資金繰り表を見て冷静に理解し、その場で私の要望に賛成してくれました。妻と娘は頭では理解してくれましたが、心情的には割り切れない様子でした。あまりにも唐突で、しかも結論ありきの話に少々戸惑い、不満だったのでしょう。

後日、私の母と二人の姉にも早期退職したことを告げましたが、姉は「やっぱり定年前に会社辞めたんだ。学生の頃からあんた、そう言ってたね」といわれたとき、そういえば確かにそんなことを言っていたことを思い出しました。

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退職後有り余る時間をどう過ごすのか、これは総ての人にとって大きな問題です。

団塊世代の70〜80%が働き続けたいというアンケート結果は経済的問題が大きいとはいえ、しかしそれだけではなそうです。会社の先輩、同僚、知人、友人の中で私と同じように子供も成人し、ローンも完済し、経済的な問題もクリアーしていると思われる人でもなお働き続けたいと考える人がいます。いやむしろ私のように早期退職した人は少数派でした。

これといった没頭するような趣味もなく、退職後にぜひやってみたいと思っていた夢もなく、とりあえずこれまでサラリーマン人生を支えてくれた妻の慰労を兼ねて、ヨーロッパ旅行をすることぐらいしか思い浮かばない、という人は多いと思います。

退職後、男性が一番してみたいことのナンバーワンは旅行です。世界遺産を尋ねる海外旅行、ついで多いのが目的を決めない行き当たりばったりの国内旅行です。

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しかし、希望と現実が違ってくるのはよくあることで、実際に世界遺産を巡る海外旅行や寅さんのようなお気楽な放浪の旅をする人は希望に反比例してかなり少ないそうです。

旅とは非日常性を楽しむもので、旅が日常になった途端その楽しさはどこかにいってしまいます。旅行は計画するとき、実際に出かけたとき、帰ってからの思い出、の三段階で楽しむことが出来ます。その点で旅は魅力ある娯楽であることは間違いありません。

しかし一年の大半の時間を旅行に費やすというのはやはり経済的に無理があります。一年に多くても数回というところが無難なところではないでしょうか。やはり日常生活のなかでの時間の使い方はもっと身近で簡単に出来ること、そして経済的負担の少ないものを考えておく必要があります。

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最後の精神的不安ですが、人間誰でも自分の居場所をなくしたくないという思いはあります。どこかに帰属していないと不安になるものです。その点、会社は便利なところで名刺と定期は会社負担で支給され、外出先から会社に戻れば自分専用の机に電話とPCが置かれ、座るべき椅子が用意されています。周りは知った顔ばかりでアフターファイブには近くの飲み屋で気心の知れた親しい社員同士が集まり、時間を忘れて四方山話に花を咲かすことが出来ました。再雇用後は部下がいない替わり厳しく責任も問われず、給料が3分の1以下になったことを除けば思いのほか気楽なものです。

しかし、退職後は一転して人に会うために家を一歩でると交通費が高くつくことを思い知らされ、名刺は自分で作ることもできますが、自宅住所と名前だけで、やけに空白が大きくてバランスがとりずらい名刺に居心地の悪さを感じます。

電話をかける相手も、かかってくる相手もなく、会うべき人もない毎日が続くのです。突然、社会との接点が失われ大海に一人放り出されたような孤独感に襲われます。

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出来るだけ長く同じ会社にいたいという気持ちは痛いほどよくわかります。可能であればできるだけ会社にとどまることはけして悪いことではありません。

しかし、自分で起業して経営者になるか、会計士のような個人事業主にならない限りいつかは会社を辞めざるを得ません。

出来るかぎり早めに心の準備をしておくことを勧めます。出来ればあれこれと頭の中でプランを練るだけではなく、すぐに行動に移すことが肝心です。それも出来ることなら退職前に実行してしまうのがベストです。

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再雇用期間中は仕事がそれほど忙しいわけでもなく、定時にはさっさと帰っても誰もとがめることはないでしょう。いろいろな大学で社会人向けの講座がありますが、受講しようと思えばできるはずです。時間が許すかぎりとにかくトライしてみることです。

というのも頭で考えていたことと、実際にやってみた結果に大なり小なりズレが生じるものです。

ズレがあまりにも大きなときはさっさと方針転換をすればいいのです。それは退職後のありあまる時間のなかでゆっくりやればいいと思っているかもしれません。しかし、考えていたプランが現実の壁の前に打ち砕かれると、精神的ショックは大きく、こんなはずではなかったと焦りが出てきてしまいます。退職前より退職後のほうが不思議なことに早い時期になんとか何かを見つけなければと焦るのです。時間はたっぷりあるはずなのに時間がないという強迫観念に襲われるのです。





※本レポート中の写真と本文の内容は直接関係はございません。