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田舎暮らしのポイント

第10回 田舎は古い社会?


 民主主義の原則のひとつに多数決がある。

 価値観の多様性を考慮して、多数意見を最終的に採用すること。それは合理的なルールと幼い頃から教えられてきた。

 一方で「全会一致」とか「総論賛成、各論反対」は今でもしっかり政治の世界で残っている。

 これをもってしても、日本の社会はまだまだ古い体質が残っているといわざるを得ない。

 田舎の村社会も同じようなところがある。

 独自の民俗学を確立した宮本常一の若かかりしころ頃の話だ。

 日本の農村には今でいうところの議会議事録のような村の重要事項を決めたときの文書が残されている。古い時代の歴史や文化・習慣を紐解く貴重な資料となるが、これが門外不出に扱われていて、部外者が目にすることはできない決まりごとになっている。

 そこで、村長に学術的な価値の高さからその文書を三日間だけ借り受けたいと頼み込んだ。村長は村の役員たちを集会所に集めて協議することにした。ところがまてど暮らせど、村長は帰ってこない。気が気でない宮本が集会所に赴くと、三々五々集まってきたらしい村人がのんびり、世間話を交えて協議している様子が外からうかがえた。

 肝心の貸し出し話にあまり賛意をしめさない村人がいても、そこで喧喧諤諤の議論には進まず、貸し出しの話とは違う話題に移ってしまう。翌日も、翌々日も同じような展開だったが、結局「全員一致」で、貸し出しが決まった。

 狭いコミュニュティーの中では、一人でも納得しないと、後々禍根を残して小さな村がギクシャクしてしまうらしい。小さな村の住民同士は親戚関係にあることが多い。血が濃い分、小さなトラブルが増幅する可能性が高い。

 このことは田舎が古い社会といったマイナスイメージでとらえるか、ちいさなコミュニュティーを快適な空間に保つ生活の知恵とプラスに捉えるかによって、田舎のイメージが180度変わってくる。

 都市の物差しで田舎を見ると一見、合理性が薄いことでも実はその正反対ということも多々ある。

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