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私営の市民農園をたずねる


 人口365万人の大都市、横浜市には市が認定した市民農園が175ヶ所ある。市民農園の総面積は22,8ヘクタールに及ぶ。

 内訳は一区画平均30平米の土地を市民に貸し出すタイプのものが83ヶ所、農家の畑を使い、農家主導の下で栽培、収穫を体験する体験型タイプのものが89ヶ所、2種類の市民農園からなる。

 そのほかにも公園タイプの農園が5ヶ所、小中学生を対象にした環境学習農園が8ヶ所、いきいき健康農園という名称の市民の自主管理による農園が9ヶ所ある。

 横浜市ではこのように市民の要求レベルに応じた農園が整備され、市民に提供されている。


 食の安全と農業への関心の高まり、そして高齢化社会と自然志向への傾斜、いくつかの要素が絡み合い、市民農園は静かなブームが続いている。

 行政の管理する市民農園は原則、市民にしか開放されていない。しかも人気は高く、抽選に外れる人は多い。順番待ちが多くなれば、公平性の原則から契約期間が2年、市によっては最長でも3年といった具合に利用制限が設けられているところが主流である。

 運良く抽選に当たって、市民農園を楽しんでいる人でも、2、3年後にはせっせと肥料を入れた畑を返さなくてはならない。


 公共の市民農園が充実している横浜市だが、2000年8月に私営の市民農園を開設した企業がある。有限会社ドミタス(下山博社長)は特定農地貸付法に基づいた市民農園(横浜市では「特区農園」の名称)の運営を受託して新しいビジネスを展開してきた。現在では横浜市緑区、青葉区を中心に13ヶ所の「ドミタス家庭菜園」を展開している。

 その規模は500区画、総面積2,4ヘクタール、会員数も400名と成長著しい。

 当NPOの所在地の所沢市が管理する市民農園が市内に6ヶ所、424区画、総面積1,1ヘクタールと比べてみても、「ドミタス家庭菜園」の規模がおのずとイメージできる。


 市民農園の充実している横浜市で一私企業の「ドミタス家庭菜園」が大健闘している理由を探ってみた。

 公営の市民農園は市民以外は利用できない、利用期間が決められている、場所によっては水道、休憩所、トイレ、駐車場といったインフラが未整備で、利用者にとっての満足度が低いケースが散見される。農園の区割りに通路や各区画を仕切るスペースが小さくすぎて、作業がしにくい、ゆったり感がないなどの心理的配慮に欠けるケースもある。


 生まれて初めて野菜の栽培をする人が市民農園を利用する場合、野菜つくりのノウハウはみようみまねで、独学するしかない。

 またこれは憶測の域を出ないが、公営独特のこまごました利用規則に縛られ、自由度が著しく低いことが考えられる。あるいは同じ農園仲間との交流の機会が少ない、なども満足度の低さにつながってくると考えられる。

 しかし公営のメリットはそのデメリットを相殺するくらいのメリットがある。それはなんと言っても利用料金が格安であることだ。その半面、応募が集中すれば、いつ借りられるかは運次第という致し方ない側面も忘れてはいけない。


 年の瀬も押し詰まったある日、「ドミタス家庭菜園」を訪れると、三々五々、畑に会員が集まってきたので、その中のお一人、Iさんに話をうかがってみた。

 休憩小屋の掃除に来たというIさんはお隣の川崎市から愛車の赤いワーゲンで来られていた。

 川崎市の自宅周辺も畑が年々激減して、公営の市民農園が借りられず、ネットで川崎市周辺の市民農園情報を検索して、「ドミタス家庭菜園」にたどり着いたという。Iさんは車で約20分かけて週末農業を楽しんでいる50代の現役サラリーマンである。


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13ヶ所の畑に統一基準で作られた休憩小屋

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ストーブを使って料理も楽しめる

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休憩小屋の裏の農具置き場

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井戸を掘った引いた流し場

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通路を大きくとった先に簡易トイレがある

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要所要所に散水栓もある