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「滝野川ゴボウ」が現在の主流


 ゴボウは寒さに強く、水はけの良い土地を好みます。植物は長い年月の間に分化してさまざまな品種ができるものですが、ゴボウは日本に渡来してから長い栽培の歴史にもかかわらず品種が多くありません。水はけの良い黒ぼくの土壌が多い関東では、地中深い長根ゴボウが栽培されます。一方、かたい土壌の関西では、短根ゴボウがつくられる傾向にあります。

 現在の主流「滝野川ゴボウ」は、長さ約1m、直径2〜3pの長根ゴボウの代表品種です。名前は、江戸時代初期に東京北区の滝野川付近で栽培されたことに由来しています。日本のほとんどのゴボウは、滝野川ゴボウを品種改良したものです。晩秋から冬が旬ですが、貯蔵が容易なので通年出回ります。伝統京野菜で有名な「堀川ゴボウ」は、滝野川ゴボウを移植2年栽培で太らせてつくります。長さ約50p、直径6〜9pで、中に空洞を生じます。中心をくり抜いて、すり身やひき肉などを詰めて煮込むことが多いゴボウです。豊臣秀吉が建造した聚楽第が取り壊されたあと、お堀に付近住民がゴミを捨てていたところ、食べ残しのゴボウが巨大に生育しているのが発見され、それを見た農民が越年の栽培法を編み出したのが起源とされ、栽培に手間がかかるので値段も高くなります。

 短根ゴボウの代表品種は、千葉県八日市場市大浦でわずかに栽培されている「大浦ゴボウ」です。直径が10cm、重さが2〜4kgに達する巨大なゴボウで、現在は成田山新勝寺に納めるぶんのみを契約栽培でつくるため、市場に出荷されることはありません。天慶3年(940年)平将門との戦いの前に、藤原秀郷が新勝寺で戦勝を祈願した際、大浦ゴボウで酒宴を張って勝利したことから寄進する習わしが始まったといわれ、1966年(昭和41)に天然記念物として市の文化財に指定されました。

 そのほか、初夏に出回る直径1.5p前後の「新ゴボウ(夏ゴボウ)」は、肉質がやわらかで香りもよく、柳川鍋に利用されます。また、福井の「越前白茎」に代表される5〜6月に関西を中心に出回る「葉ゴボウ」は、茎の部分を和え物などにして食べます。

 ちなみに、商業上「山ゴボウ」と称して売られている味噌漬けなどには、近縁のアザミ属のモリアザミなどが使われています。それは、本物のヤマゴボウ属は根に硝酸カリを含む有毒植物で、食べると腹痛・嘔吐・下痢など消化器系の障害を引き起こし、ひどいときは虚脱・昏睡状態になるからです。


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