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ミステリアスな中国


 欧米人にとって東洋人は一様にミステリアスな存在らしい。その東洋人である日本人から見ても中国は十分にミステリアスである。

 ミステリアス、その理由のひとつは「一国二体制」。

 共産党が敵と見据えた資本家、企業のなかに党支部を作り党員は先頭に立って企業活動にコミットし、一私企業の営利追求に積極的な貢献をして、経済成長に大きな力と役割を担っている。党員は6600万人、未来の党員予備軍、青年組織もほぼ同数で国民の約1割を占める党員を抱える共産党。その存在と力は厳然として残っており、国家の推進力としてますます重要性を増している。

 毛沢東の「文化大革命」の激しさと大混乱を招いた歴史的事実を同時代的情報として知る日本人にとって、今日の中国の変貌と繁栄、そして国際的な大躍進を想像することすら出来なかった。

 たかだか十数年前の広州近郊の農村は水牛が動力として立派に使役され、農民は裸足で戸外を歩き、村には電気すら通じていなかった。香港から広州を鉄道で移動したが、その途中の農村風景と都市との落差のあまりの大きさに、別世界にタイムスリップしたような感覚を覚えたことをいまでも鮮明に記憶している。

 その後広州を訪れる機会はなかったが,近隣の深センや上海の繁栄ぶりから連想すれば、革命的な大変化を遂げたことだろう。


 都市と農村の貧富格差拡大の構図はオリンピックが行われた北京市内にも随所に見ることが出来る。北京一の繁華街「王府井」は故宮博物館に程近く、その近辺の高級ホテルは通常価格の3倍の五輪価格で営業しているが、1泊の宿泊料が地方の低所得者層の年収に相当するほど高い。しかし高級ホテルのすぐ裏側の通りをのぞいて見ると、北京の伝統住宅・四合院式の古い住宅が立ち並ぶ。東京で言えば皇居にほど近い場所でも長屋式住宅が軒を連ね、共同トイレ、共同風呂を利用する市民生活をつぶさに見ることが出来る。補修が行き届かない道路は穴ぼこだらけで、オートバイはジャンプを繰り返しながら通り過ぎていく。練炭がいまだに炊事の燃料として使われ、昭和30年代前半の東京下町のような風情である。華やかな外向けの北京と一歩裏通りを入ると旧態依然たる古ぼけた北京が共存している。これまたミステリアスである。


 4年前に北京を訪れた。目的は偽ブランドが横行している中国の実情を視察するためだった。

 ビル全体が偽者商品を扱う「紅橋市場」は偽者を扱う市場の代表的存在で、古ぼけたビルの外観はいかにも胡散臭そうな雰囲気をかもし出していた。しかし今回、再度訪れてみると外観は化粧直しが施され、こ洒落たデパートのように衣替えされていた。扱い商品は真珠がメインになっていたが、それでも一部に偽バックも売られていた。

 観光ガイドブックにも「紅橋市場」はしっかり紹介されており、市内の観光名所のひとつになっている。

 これほど世界中で知的財産権の侵害を取り締まる目が厳しくなっているにもかかわらず、ある程度当局は見てみぬふりを決め込んでいる。偽ブランドにかかわらず、さまざまな違法行為に対する当局の取り締まりは日本人からみるとかなり緩く、役人と業者の癒着が日常化しているように映る。小さな不正も見逃さない日本人の性格からは到底理解しがたい中国社会である。


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故宮入り口、その前に天安門広場が広がる

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故宮近くのメインストリート「王府井」、近代的なビルが立ち並ぶ

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近代的なビルの裏側に残る旧市街

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偽物市場「紅橋市場」は見違えるほどこぎれいになっていた

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「紅橋市場」の内部の様子 偽ブランドバック売り場がわずかに残っている