特集

  • 前のページへ
  • 002
  • 次のページへ

地元の「シゲさん」との出会い


 「嬬恋ファームイン」のメンバーが15年の長きにわたり週末農業を続けてこられた理由は、嬬恋の大自然以外にもう一つあった。それは一人の土地の人間との出会いである。

 その人とは黒岩繁一氏。昭和22年生まれで地元で建材会社を営んでいる。通称「シゲさん」と親しく呼ばれ、「嬬恋ファームイン」とは切っても切れない関係の人物である。

 首都圏のキャベツの80%を生産する高原キャベツで有名な嬬恋村だが、冬季の半年間は雪と寒さに閉ざされる厳しい気候の土地柄のためか、農家の子供たちはあとを継がず、村をでていってしまう。人口流出に悩むのは日本中の農村に共通する悩みである。そんな嬬恋村にわざわざ何が面白くて東京から来るのか、「シゲさん」には「嬬恋ファームイン」のメンバーを当初理解できなかったようだ。

 しかし、都会の人間が来ることで地域の活性化にむけて地元が刺激を受けると考えた「シゲさん」は持ち前のパワーと行動力で、知り合いの農家に掛け合いメンバーが求めていた休耕地の借り上げを仲介してくれたり、自分の別邸をメンバーの宿舎に開放して、積極的にバックアップしてくれた。

 さらに「シゲさん」の太っ腹なところは専用の宿舎まで建ててしまったことである。自分の所有地に20名は泊まることができる古民家を移築して、「百年小屋」と名づけた。さらにその隣に50名弱の宿泊可能な立派なカナディアンログハウスも建てた。厨房設備も整ったかなりの規模のログハウスである。室内は食堂兼各種集会・ミニコンサートも開ける広々としたスペースがある。

 このスペースを使って「嬬恋ファームイン」のメンバー同士が輪番制で、5月から10月の第二土曜日の夜、料理からデザートまで自前で作り、新人参加大歓迎のオープンな親睦パーティーを開いている。5月の第二土曜に、その親睦パーティーに筆者も初参加してきた。

 今回の料理のテーマは「なんとなくイタリアンな超B級料理」、酒はビール、ワイン、焼酎と飲み放題、デザート、ケーキまで作りテーブルをにぎわせている。

 メンバーから村長さんと呼ばれる小泉純司の乾杯の音頭で、にぎやかなパーティーが始まった。小泉は念願のキャンドルアーティスト(http://www.candle-art.jp/index.html)として、いまやこの世界の第一人者として活躍している。15年前に現在のメンバーがいささか危惧したことが杞憂になるほど、キャンドルアーティストとして数々の実績を積み上げてきた。

 メンバーの多くはすでにリタイヤして、「シゲさん」の特別な計らいで別荘を建て、東京の住まいとの二重生活を続けている人が多い。冬場はほとんど東京で生活して、春から秋にかけて嬬恋での生活を楽しむというパターンである。メンバーの平均年齢は60歳をすこし超えたところあたりであろうか。

 初参加の筆者も周りに同年代が多いせいだろう、気兼ねなく、そして自然に会話の輪に入ることができた。じつにアットホームな雰囲気だった。奥さん同伴のメンバーが多いこともあり、和やかなムードが心地よい。

 パーティーはメンバー同士の親睦を深める目的であるが、5月のそれはもう一つ、畑の区割りを決めるための集まりも兼ねている。

 畑の使い方は基本的に市民農園方式で、個人もしくはグループ単位で単位区画を借り、思い思いの野菜を、自由に作る方式をとっている。広い面積を希望するグループもあれば、最小単位で十分な人もいる。このあたりのルールはきわめてフレキシブルだ。


 このフレキシブルな畑の運営法は「嬬恋ファームイン」全体に貫かれているような感じがした。必要最低限な決め事以外は、メンバーの出入りも割合自由である。15年前の発足からいままで、多少のメンバーの増減があったものの、これだけ長続きしているのは推測するに不必要な規則に縛られなかったからだろう。

 パーティーは9時過ぎにお開きとなって、メンバーの大半はそれぞれの別荘へと引き上げていった。残ったもの同士数名が残り酒を酌み交わし、旧知の間柄のようにしばし歓談することができた。「嬬恋ファームイン」の過去のいきさつ、メンバーたちの簡単な略歴なども話しの端々から知ることができた。

 明日は朝から始める畑の区割りと、椎茸菌の植え付け合同作業に立ち会う予定だ。

 久々に気持ちよく酔い、一人一部屋を使ってゆったり嬬恋の夜に包まれて熟睡してしまった。



「嬬恋ファームイン」と「NPOがんばれ農業人」による共同企画イベント「週末農業、別荘ライフ、田舎暮らし、それぞれの楽しみ方」を行います。募集人数は30名です。先着順で受付いたしますので、お早めにお申込みください。
詳細はこちらから・・・。


>> 神山 光路 1948年東京生まれ <<
大学卒業後、出版社勤務、現NPOがんばれ農業人 代表理事
記事関連の写真

メニューの数々

記事関連の写真

同上

記事関連の写真

アルコールは何でもあり、デザートもつきます

記事関連の写真

おもいおもいに席について、食事をとるメンバー

記事関連の写真

同上

記事関連の写真

明日の畑の区割り抽選を準備する

記事関連の写真

抽選風景