ミツバチと人の手で受粉していく地道な作業
野菜作りを楽しむ人は年々増えてきている。
団塊世代(S22〜S24年生まれ)の退職が始まった2007年以降、各種調査、アンケートでは「家庭菜園」を楽しもうと考えている人の割合はかなり高い数字を示している。
家庭用耕運機を製造・販売する農機メーカーの試算によれば、689万人の団塊世代のうち、200万人が野菜作りを楽しみ、そのうちの1割の20万人が家庭用耕運機を購入すると見込んでいる。単純計算すれば3人に一人が野菜作りを楽しむ計算になる。にわかに信じがたい数字で、農機メーカーの希望的試算の感じもしないでもない。
しかし、200万人はかなり多めの見込みとしても、野菜作りを楽しむ人口は間違いなく増えている。したがって園芸店で種を買い求める人が増えているということになる。
種苗会社の見学は今回が始めてである。
埼玉県久喜市の野原種苗(http://www.nohara-seed.co.jp/syouhin/top_seed.html)を訪れると、その入り口は中規模の園芸店、といった風情で事前のイメージとは正直言ってかなり食い違った印象だった。
事前のイメージでは、まわりをみわたす限りの広大な畑に、さまざまな種類の野菜が、どーっと試験栽培されている光景を思い浮かべていた。
到着後、早々に案内された試験農場は、事務所棟の裏手にあり、いくつかのビニールハウスが建っていた。その規模はわれわれが日常よく目にする程度の大きさで、ビニールハウスに隣接して路地畑が広がっている。
これはあとに続いた懇談会の席上で説明をうけて知ったことだが、実際の種とり作業は海外の農家に委託しているため、ここ久喜市の農場はその元となる種の試験栽培のための農場だった。
しかし、外見の平凡さとは違い、その中で行われていることは実に興味深く、奥深いことをのちのち知ることになる。
野原種苗のメイン商品は小松菜とホウレンソウである。一つのビニールハウスには一つの作物について何種類もの異なる品種が試験栽培されている。同じ小松菜でも葉の大きさ、形といった形状から、多収量、病害虫に強いもの、葉の色の違い、食感の違いなどさまざまな角度から試験栽培が繰り返されている。
形状についていうと、農家の収穫作業が楽になるようなもので、かつ箱詰めしやすい品種が研究され、作られていた。
ユーモラスなのが小松菜の商品名で「ひろみ」、「なっちゃん」、「みきちゃん」のように和名がつけられているが、ホウレンソウは「サマーステージ」、「プライマリー」のようにカタカナ名詞がつけられている。
さて肝心の種とりの過程だが、花が咲き、受粉することで次世代をつなぐ種が作られる。
この受粉を促す方法が二通りある。自然の力を借りる方法と、人の手で受粉を促す、いわゆる人工授粉である。
前者の自然の力とはミツバチによる受粉促進である。ビニールハウスの中で意識して目を凝らすと、小さな蜂が飛んでいるのが見える。蜂は長野の蜂業者に注文すると、千匹単位のミツバチが入ったダンボール箱が、注文の翌日には宅急便で届けられるシステムになっている。商品名は「ぶんぶんせん」、二千匹入りを注文すると「ぶんぶんにせん」ということらしい。
種といい、蜂といい、農業関連の商品名はなぜか牧歌的でユーモラスなネーミングが多い。