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− 第12章:終章 −

20年前の予言が現実に!


 ケンブリッジ大学は2年後の2009年、創立800年を迎える。その長い歴史の中で、ニュートンの万有引力始め、原子核の構造、レーザー光線、DNAの2重螺旋構造、ビックバン、コンピュータの元となった人工頭脳など、後の世界を大きく変えてしまうような業績を数多く残してきた。研究学園都市“ケンブリッジ”に長年住んでいると、アカデミックな人たちとの付き合いも広がり、科学的な話題が日常会話の中で頻繁に飛び出す。20年以上も昔のことである。友人の研究者が、ごく普通の会話の中で衝撃的な話しをしてくれた。彼の話しを要約するとこうだった。本来、地球の気候とは絶えず大きな変動を繰り返していて、この過去1万年こそが、奇跡的に安定した時期だった。原因は色々と考えられるが、今、その安定期は終わりを告げ、激変のプロセスに移りつつある。地球全体で海流の変化が起こり、海水温の変化が気候の変動を各地で加速させる。人類は大きな試練に直面するだろうとの事だった。私たちは、彼の話を半信半疑で聞きながらも、その時は、どこに住むのが良いかなどと気楽な議論で盛り上がった。


 その当時、極地のオゾン層破壊などが話題になったが、地球の温暖化や気候変動について、一般の認知度は低く、広く論じられることはなかった。それから、しばらくして、科学誌「サイエンス」などで、地球の気候全体に大きな変化が表れていることや、二酸化炭素濃度と温暖化の関係などが様々な証拠で示され、科学者だけでなく政治家たちも警鐘を鳴らし始めた。今日、“気候変動”は世界的な課題になり、目前に迫る脅威として認識されている。イギリスの長閑な田園風景を日々眺めていても、何かが大きく変わり始めたように思う。気温の上昇は洪水など災害の規模と頻度を増し、生態系の変化は酪農業、漁業に様々な影響を与えている。20年前、友人が“予告”したことが、現実として起こり始めている。これは人類にとって“危機”とも言われているが、友人は、もう一つ付け加えていた。もし、地球に気候変動が起こっていなかったら、人類は存在していなかったと言う。環境の劇的な変化こそが、生物の進化を促してきた重要な要因であると力説していた。複雑な心境であるが、地球温暖化は悪いことだけではないらしい。今こそ人類の英知が試される時代になったのだろう。これからも、イギリスの田園風景を日々眺めつつ、そこに秘められたテーマを探究しようと思う。

【完】

>> 志村 博 <<
英国ケンブリッジ在住、アーティスト。
http://www.shimura-hiroshi.com/
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