発芽率の話
野菜の種が入った袋の裏には「発芽率」が表示されています。
大半の野菜の発芽率は70〜90パーセントを示しています。いうまでもなく100粒の種を播けば70〜90粒は芽をだすという意味です。なかには春菊のように発芽率50%という種類もあります。
しかし、実際に野菜作りをしているとしばしば表示どおりに発芽しないことがよくあります。前回レポートしたほうれん草の発芽率は表示上80%とありましたが、実際は20%と最悪でした。
低率の理由はほうれん草の発芽の最適気温(15〜20度)より高めの気温で種を播いてしまったことにあると思っています。そこで今回の失敗を機に、発芽に関するメカニズムを考えてみることにしました。
種が休眠状態から目覚め、芽をだすために必要な環境条件は「温度と水分と酸素」が一定水準に達したとき、種は発芽のタイミングを感じ取るといわれています。
発芽に適する「温度」は種によって異なります。一般的には20〜25度が発芽適温ですが稲に代表されるように30度以上の高温を好むもの、反対に20度以下の低温を好むものもあります。実はほうれん草は低温を好む代表的な種類です。
種袋に種を播く時期を地域別に色分けしていますが、気温が上がれば土の温度も上がることをおおよその目安として示しています。厳密にいえば適温といっても日陰の土地は日当たりのよい土地に比べ、土の温度も違ってくるので、注意しましょう。
「水」は植物に限らず、生き物すべてにとって生命を維持するために不可欠です。休眠中の種は水分を極限(10%)まで減らした乾燥状態で生命を維持していますが、休眠からさめるには適量の水分が必要になります。硬い殻をまとった大豆や朝顔の種は土に播く前に水につけて殻を柔らかくします。物理的に殻を柔らかくするだけのこの段階ではまだ発芽するかどうかはわかりません。言い換えれば種が生きているのか死んでいるのかがはっきりしないということです。
次の段階で種は少量の水分を吸い内部でさまざまな生理的代謝を促進しています。そして幼根が発生して盛んに根が水分を吸収したところで発芽のスイッチが入った状態になります。
酸素は大気中に十分あるため、種まきのときに酸素に関しては深播きに注意するだけで十分です。表土近くは酸素がいきわたっていますが、深くなるほど酸素は少なくなるからです。
このように発芽には「温度と水分と酸素」が不可欠ですが、これ以外の条件も絡んできます。
おそらく種はある一定期間の温度の総和を測る力を持っているのかもしれません。たとえば夏野菜の種が季節の判断を間違え、秋に発芽してしまえば冬の寒さにやられてしまうでしょう。単純に日中の気温がほぼ同じだからといって春と秋取り違えて発芽することはありません。
また種は地上の光をうっすらと感じ取り、発芽のタイミングをじっと計っています。光のさす微妙な方向・角度を感じとって季節を判断しているのかもしれません。
いずれにしてもいくつかの要素が絡み合って種は発芽のスイッチの入れ時を判断しているのです。