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− 第7章:景観 −

ビニール・ハウスが消える?


 先月のことである。イギリスでTVニュースを見ていたら、一見懐かしいようであり、また少し違和感のある情景が映しだされていた。1人の農場経営者がインタビューに答えている。そして、その背景に日本では普通に見かけるトンネルのような“ビニール・ハウス”が連なっていたのである。場所は、イギリス南部の田園地帯、特に有名な場所ではなく、ビニール・ハウスがなければ、どこにでもあるカントリー・サイドだった。その農場経営者は、そのビニール・ハウスの持主らしく、ある不安を訴えていた。内容を要約すると、ビニール・ハウスを建てるには地方自治体の許可が必要なのだが、規制がより厳しくなったので、続けるのが難しくなったとのことらしい。イギリスは、宅地規制が日本とは比べものにならないほど厳しい。とくに農業用地から宅地への転用は至難の技で、地方議会だけでなく、時には地域全体を巻き込む大論争に発展する。“ビニール・ハウス”は、家屋に準ずる扱いになるらしい。

 そう言えば、ケンブリッジ郊外の田舎に住んでいて、頻繁にカントリー・サイドをドライブするのだが、ビニール・ハウスが連なる光景を見たことがない。気候温暖な地域ではないが、イチゴや野菜などは、ほとんど露地で作付けされている。園芸などの温室栽培は、農場敷地内で行われ、広野に展開することはない。ケンブリッジ州やこの周辺の地方自治体は、規制がとくに厳しい。ニュースの内容を追ってゆくと、イングランド南部にあるその地方自治体は、比較的緩やかな規制だったらしいが、最近、他州並みに適応されるようになった。その結果、その農場経営者のビニール・ハウスは存亡の危機に陥った。規制の理由は単純明快、すなわち“景観”である。

 そこは、観光地でも、景勝地でもなく、普通の農業地域なのだが、この景観に対するこだわりは、一体どこから来るのだろうか?

>> 志村 博 <<
英国ケンブリッジ在住、アーティスト。
http://www.shimura-hiroshi.com/
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