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− 第4章:牛飼い −


 ある日の午後、雨が降りそうで雲行きも怪しがったが、私はいつものようにメドー(牧草地)の散歩に出た。牛たちが集まり、その中心に1人の男性がいて、牛を撫でている。メドーで人と会うことは珍しいことではなく、牛たちは広いメドーで、大体いつも一ヶ所に集まっている。ところが、その光景はいつも見るものとは違っていた。牛たちは男性に甘え、体を撫でてもらっている。私は、この男性こそが、私の疑問に答えてくれる“人物”であることを確信し、ためらうことなく声をかけた。名前はマイケル・ブレットさん。やはり、この牛たちの飼い主だった。それから約30分にわたり、ブレットさんは私の矢つぎ早の質問に答えてくれた。それらをまとめると次のようになるのだが、この牛が放たれている“グランチェスター・メドー”の地主は、ケンブリッジ大学のキングス・カレッジである。そして、メドーは、幾つかの区画に柵で分けられている。


 牛飼いのマイケル・ブレットさんと、地主のキングス・カレッジとは、牛を放牧する契約が交わされている。ブレットさんの農場は、ここから約20キロ離れた、ウィリングハムと呼ばれる村の近くにあり、牛たちは冬の間、そこの牛舎で干草や麦を食べて過ごす。春になると、大きなトレーラーに乗せられて、ここのメドーに連れてこられる。放牧された牛たちは、主に繁殖用の雌牛とその子牛たちで、晩秋までウィリングハムの牛舎に帰ることはなく、メドーで過ごす。もちろん、メドーに牛舎はなく、夜もメドーで過ごし、思い思いの場所で寝ている。一連の写真は、春から秋にかけてのメドー風景である。牛たちは、一列に並んで効率よく草を食べ、時々休む。暑いと木陰に集まったりするが、反芻しながら、草の上で思い思いに寛いでいる。人が来ようが、犬が来ようが、マイペースで、時折り旺盛な好奇心で、ピクニックの人たちの場所に割り込む。

>> 志村 博 <<
英国ケンブリッジ在住、アーティスト。
http://www.shimura-hiroshi.com/
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