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イカとラーメンはその地に限る


 世界中からありとあらゆる食品が押し寄せる国、日本。その昔、輸入品と言えば舶来物といって高価で珍しいものと相場が決まっていた。海外旅行が自由化された頃の定番お土産と言えば軽くて日持ちがして珍しい“ビーフジャーキー”だった。そんな人気者だったビーフジャーキーも今ではすっかり犬のおやつだ。

 国産品はいつの間にかブランド化しつつある。海国日本でありながらタコはアフリカ産、サバはノルウェー産、あさりは北朝鮮産、マグロは地中海産…。日本最大の港である成田に大量に水揚げ(空下げ?)されている。ああ、でもやっぱり目の前で捕れた産地偽装なしの純国産品が食べたいなあ。


イカは美味いぞ

 イカと言えば…北海道。それは東日本の人の答。西日本の人の答えは違う。中部日本海から山陰、九州に掛けてはイカの好漁場。質量ともまさに日本一のイカの海なのだ。

 九州でイカと言えば佐賀県の呼子。遠方からもイカ目当てで沢山の人が押し寄せる今やイカの町なのである。実際に行ってみると昼間は船着き場に小さなイカ釣船が係留されている。そう、イカ釣りは夜の漁なのだ。夜の海に浮かぶ無数の漁り火。あの幻想的な風景はこのイカ釣船達が描いているのである。その舟の横には今朝捕れたばかりのイカが干してある。真っ白なイカが青空に映えて美味しそうというより美しい。ひょっとしたらイカを干す風景が“いかのぼり”の語源になったのかもしれない

 店で早速イカを注文する。中位のサイズで2〜3千円のお手ごろ価格。運ばれて来たイカは結構大きい。綺麗だし何より生きている。驚いたことにイカタコ類独特のあの体色変化がまだ見られるのだ。箸で突くとその部分の色がさっと変わる。吸盤も元気で箸に口にと吸い付く吸い付く。なかなか見ていて楽しい。実際に食べてみてこれまた驚き。甘くて絶妙の歯ごたえ、絶品!美味い!あっという間に平らげると先程まで元気だったゲソが今度は主役になる。一旦厨房に引き返すと注文に応じて唐揚げか天ぷらにお色直しだ。これまた美味い。抜群の鮮度の素材を揚げ物にするこの贅沢さ。イカなんてと思う人も多いだろう。ゴムみたいに硬くて嫌いだと言う人もいるだろう。事実、妻はその様な不幸な境遇のもとに数十年生きてきた。しかしこのイカを食べてからイカ人生観がすっかり変わったのである。イカは美味いぞ!

>> 田中康弘 <<
1959年、長崎県生まれ。大学卒業後、カメラマンを志し、現在西表島から知床までの津図浦々を取材に飛び回る。「マタギ」をライフワークに、秋田・阿仁またぎの不肖の弟子を自称。
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見て食べて楽しい美味しい