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塩と健康


 江戸時代の『本朝食鑑』には「塩は無害にて、毒を解し、血を清らかにし、乾きを潤し、痛みを定め、かゆみを止め、顔のできものを治し、熱腫を散らし、疥癬をいやす」とあります。かつて東北地方の人びとが塩分をたくさん摂ったのは、野菜や魚の保存に塩漬けを多用したこともありますが、おもに寒さから身体を守るための防衛手段でした。塩が不足すると血圧が低下して身体が冷え、体力・気力の倦怠感や脱力感を生じさせます。またひと昔前に、炭坑労働者が暑い坑内での労働による発汗で塩分を急速に喪失し、痙攣を起こして死亡することがよくありました。塩分を失うことが、食欲不振・消化不良・疲労・倦怠・悪心・嘔吐・めまいなどの症状を招き、ひどくなると死亡するという一例です。もちろん、塩は摂りすぎれば血圧が上がったり、むくんだりして、生活習慣病を誘発する一因となりかねません。塩をうまく摂っていく方法は、同時にカリウム・カルシウム・マグネシウムを多く摂ることです。そうすれば、塩を摂っても血圧は上がりにくいし、そのほかの害もなくなります。なぜなら、カリウム・カルシウム・マグネシウムが尿中のナトリウム排泄を促進し、効果的に体外へ追い出すからです。その結果、動脈硬化を改善し、浮腫をとり、血圧を正常化させ、頻脈を改善することが可能となります。また、塩には対比効果があるので、しるこやぜんざい、スイカやトマトやとうもろこしに少量かけると甘さがぐっと際立ったり、コーヒーやココアに少量入れるとコクが出るため、うまく利用すれば食生活も豊かになります。つまり、身体の要求に応じて塩分をしっかり摂り、カリウム・カルシウム・マグネシウムも摂りつつ、運動・入浴・サウナなどで発汗して余分な塩分を排泄するのが理想的な健康法といえるでしょう。

塩にまつわる格言・ことわざ


 その重要性から、日本には塩にまつわるいろいろな言葉や話がたくさんあります。味噌や醤油がなかった時代、味つけに使ったのは塩と梅干・梅酢でした。梅干・梅酢を湯で溶かし、酸味と塩分がにじみ出たもので味つけをしていたといいます。これらの加減しだいで味が変わったことから、物事のぐあいを表す「塩梅(あんばい)」という言葉が生まれました。塩には相手の水分を引き出す効果があります。そこから、急に元気をなくしてしょげるさまを表す「青菜に塩」や、すっかり元気がなくなることのたとえ「なめくじに塩」のことわざができました。そのほか塩に関することわざを挙げると、悪いことの上に、さらに困難が重ねて起こることのたとえ「傷口に塩」や、自ら世話をして大事に育てることを表す「手塩にかける」など、枚挙にいとまがありません。

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