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いいとこ取りの新種、大学ブランド「キンキダイ」

 完全養殖への道は平坦なものではなかった。マグロは、広大無辺の大洋を超高速で回遊し続け、止まったら死ぬ魚。そういう魚を囲いの中で果たして飼育できるのか。そんな疑問以外にも、他の魚とは違う難しい問題点がいくつもあり、それらを次々と克服しなければならなかったのだ。誰もやっていなかったことをやるのだから、見本はないし文献もない。自分たちで試行錯誤するしか方法はなかったのだ。

この偉業を達成できた背景には、ハマチ以来、何種類もの養殖魚を世に送り出してきた実績と、それを可能にした先進技術の蓄積がある。先進技術の例は、ブリとヒラマサを交雑させた新種「ブリヒラ」、マダイとチダイの「マチダイ」、キンメダイとマダイの「近畿大」にちなんだ新種「キンキダイ」などだが、それらは、いいとこ取り≠しているので味がおいしく、量産がきく。


生後四十七日で、生存率わずか〇・一%

「最近、姿かたちがマグロに似てきた」と自他ともに認める熊井研究所長から体験談を聞いた。

 「水産庁のプロジェクトに参加して研究を始めたのは一九七〇年でした。以後四年間、引き縄釣りで獲ったヨコワと呼ぶ稚魚を陸上の水槽で飼育したのですが、一年以上生き続けさせることはできませんでした」

 ヨコワは、稚魚の体の横にいくつもの輪の模様があることからそう呼ばれるが、成魚になると輪は消える。この稚魚、極端な神経質で、研究陣を悩ませ続けた。音や光に敏感で、車のヘッドライトの光が当たってパニック症状を引き起こし、生簀の網に激突して首の骨を折り、即死したのである。突進する力に対し、ブレーキをかける力が弱いのだ。

 皮膚も弱く、水槽に移し変えるにも細心の注意が必要。手で触れたり、網で傷つけたりすると、そこから腐ってくることがあるとわかり、器に入れて移動するようになった。こういうことは、実際に経験してみて初めてわかることで、そこにフロンティアの苦労がある。

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出荷用のカゴ。
魚を傷つけない工夫がされている

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生簀で作業する
研究員

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ブリ(♀)と
ヒラマサ(♂)を交雑させたブリヒラ。
メスの名前を前にするのがルール

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まぐろの餌となる冷凍さばのブロック